【赤この】0911
・【赤この】0904の過去回想の続き
ぼんやりと、窓の外を見る。回りにいる人間の背が高いものだから、木葉は自身の背が高いのだとあまり感じていないが、世間一般には背が高い方である。
背が高いということはバレーやバスケなど、身長を求める競技において有利である。また、高すぎないそれほどの身長であればモテ要素にもなる。ただ、それ以外ではメリットデメリットが半々だろう。あらゆるものの高さが合わないとか、背の順では一番うしろにされるとか、大縄跳びが飛びづらいとか。教室の後ろに置かれるのは好みと、列によるだろうか。教室の中央はただ目立つだけ、窓際や廊下なら、案外背景に溶け込める。
木葉の、高校最後の席は窓際だった。あと数日しか通わない学校のこの席。授業なんてもうなくて、大体が自習だ。しかし外から聞こえる声に集中力が途切れてしまった。ふと窓の外を見れば、目が合った。
そこにいたのは数日前に想いを交わした相手、つまりは恋人だ。目が合ったのは自分だけかもしれない。隣にも同じ体操服を着た人間がいるからだ。その人間は恋人に声をかけていて、目の前に手をかざしている。
それは意識をどこかにやってしまった相手にやる動作だろう。木葉は少し首を傾げた。それからなんとなく、眼下にいる恋人に向かって手を振ってみた。
どちらかといえば表情の少ない恋人だ。しかし今は笑っているように見える。少し遠い位置からでは確信が持てないが、控えめに振られた手に、嬉しくなる。隣の人間は恋人とこちらを交互に見て不思議そうだ。
かわいいなあ。この思考だけならば恋人に対するものでも後輩に対するものでも当てはまるのでさして問題はないだろう。しかしその対象が自分より背の高い男なのだから、もしかするとなにも知らない人間からすれば少しだけ変、かもしれない。だが木葉は、本気だった。
いつの間にか恋をしていた。なにがきっかけかは自分でもわからないが、いつの間にか。きっかけを恋人にも聞いてみた。彼もまたどうしてかはわからないが、恋をしていたと言った。互いに、互いを想っていることはなんとなくわかっていて、もしかしたら惹かれていたからこそそれを察知していたのかもしれない。
告げる気はなかったが、彼が自分を欲しがってくれたから。彼に救われて、気が緩んでいたのもある。彼もまた、放っておけなかったのだと。さすが赤葦、なんて、落ち込んでいた気を浮上させてくれたことを感謝すれば、一戦前の試合終了後、我らがエースによって気分を浮上させられた経験からがあってこそだったというからなるほど、巡り巡ってそれが自分に来たのだと理解した。たしかに、ものすごく励まされていたというか、聞き方によっては煽られていたとも取れるが、どちらにせよ落ち込み経験者による言葉は重みが合って当然だ。木葉も落ち込んだことが今までにないと言うわけではないが、大舞台というのはやはり度が違って。
木葉はこっそりと携帯を取り出した。別に教師がいるわけでもないから堂々と出してもいいが、そうではないから少しだけ心臓が高鳴るのだ。
『自主練付き合うから一緒に帰ろ』
彼に、そんな一文を送る。今はまだ外にいるし、体操服なので見ることはできないだろう。だけど、後で見たときにどんな顔をしてくれるのか。それを見ることは叶わないが、想像はできる。そして、後で直接感想を聞こう。
好きだなあ。次の感情はそれだ。いつだって彼への感情の、一番最初にいるもの。大きく膨れ上がっていつか爆発するかもしれないと思いながらも、膨れることを抑えるなんてできるわけがなかった。