【HQmc】0917
シリーズ: HQmc 第1話
・少々ゲームシステムの改変あり。
・キャラたくさん出したい
──この世界を救わなくてはならない。救わなければ、還ることはできない。悪しき存在を、屠らなければ。
──小さき子らに頼まねばならない事情もわかってほしい。不便だけは取り除こう。ただし、相対的に。
──頼む、小さき子らよ。世界を救ってくれ。
まぶたを開いたら、そこは『平原』だった。それが平原だと、なぜか理解できることが不思議だとも理解できた。目の前には『草』の段差がある。それが草だとも、理解できる。もっと言えば、それは『草ブロック』である。
「……マジ?」
思わず声が出た。電子回路の勉強ができるうえ、サバイバルゲームとしても楽しめると勧められた『ソレ』に、世界が酷似している。一歩歩けば、ざり、と足音がした。
一段、段差を登った。少し高いそれは、だいたい太ももの中腹ほどまである。それは一メートル四方だと記憶していたが、これくらいの高さであれば、七、八十センチと言ったところか。階段一段よりは明らかに高いが、ギリギリ登れない高さではない。ただ、半分の高さになる『ブロック』は必要だろう。四十センチ。建築基準法で定められた一般家庭の階段の倍の高さだが、八十センチの階段よりマシだ。
足元に生い茂る草とたんぽぽ。それから、一本の木。離れたところにも数本の木があるから、この木は切ってしまおう。切るための道具はないが、その木が『素手で殴れば』破壊できることを知っている。
ただ、手の甲で直接殴るのはためらわれた。その手は、バレーをするのに必要な手だ。少し逡巡したのち、着ていたジャージを脱いで手に巻いた。素手でなければ意味がないだろうか。そのまま、二度三度木を殴った。
すると、だいたい草ブロックの段差と同じくらいの高さの範囲内にひび割れの発生を確認した。ジャージ越しでも大丈夫なようだ。
また、この世界の基準単位はものが変わろうと同じだし、破壊の際は破壊し切るまで連続で行動しないとそれまでの行動が無になってしまう。ジャージを巻いた腕で木を殴り続け、ひび割れが大きくなったところでぽん、と音を立てて五分の一ほどのサイズになった『原木』が落ちた。木の中腹を破壊したにもかかわらず、木はそのままの形を保っている。
「……実際に目で見るとすげえな……」
そうなることはわかっていた。だが、PCモニターを介して見るそれと、自らの目で見るのはまったく違った。明らかに異常だ。重力どうした、仕事しろよ。そんなことを思ってしまうほどには。
「まあ、まずは『作業台』……」
プレイ経験は少ないながらも、基本的な知識はある。しかしどうやって『クラフト』するのだろうか。ゲームをプレイしていたときは『インベントリ』が、キーボードを押したら表示されたのだが。
「あ」
考えたときだ。目の前にSFの近未来作品に出てきそうなディスプレイになっていた。空中が、その代わりをしている。手に持っている原木を右上の四分割された枠内に入れた。すると、その右に原木を使ったアイテムが表示される。右に出たアイテムを取る。『木材』四個だ。
今は知識が、わずかにあるからなんとかなっている。しかしこれが無知だったらどうなるのだろうか。恐ろしいな、と思う。手に持った新しいアイテムの木材、四分割された枠内にひとつずつ入れ、右に作業台を表示させる。
「あ! 二口!」
また、右から出来上がったアイテムを取ろうとしたときだ。背後から大きな声で名前を呼ばれた。声はひとつだが、足音はふたつ。声が知り合いのものでなければ今すぐ走って逃げるべきだっただろう。
「滑津、と……、あんた、たしか青城の」
「どーも、二口くん。青城三年、花巻です」
よく見知った彼女、滑津舞と背の高い男花巻も、自身、二口と同じようにジャージだった。部ジャーである。
「……おかしいことに巻き込まれる人間が何人もいるの、悪夢だろ……」
これは、この世界では少しだけ『小さき者』な彼らが挑む、冒険の物語である。