【月山】0927

・オメガバ、独自設定あり。α×Ω

 つがいになる約束はそれがわかった日に、した。お互いにお互いが一番いいだろうなとなんとなく感じたから中二の秋、アイツの、山口の検査結果が来るまで僕はその封筒を開けることなく待って、やっぱりそうだったからすぐに約束をした。
 本当はすぐにしても良かった。中二の検査は最終検査だけど、稀に結果がくつがえる場合もあるというからいったんやめておいた。つがいになったあとで山口がアルファやベータに変異するなら特に大きな問題はないが、僕がベータやオメガに変異したら問題だ。つがいを失ったオメガは、精神が不安定になると教えられている。アルファじゃなくなっても離れる気はないが、それでも本能への影響はわからないから。
 十八から二十歳あたりになればほとんどの人間は、故意にしない限り変異しないらしい。だからそれまで、僕らは口約束だけのつがい関係を結んでいた。

 オメガには三、四ヶ月に一度ヒートと呼ばれる期間がある。彼女ら彼らはその期間、子どもを宿せる体になる。周期的にやってくるものだから、初めてのそれからきちんと準備をして、年間計画を立てる。つがいになる話はお互いの両親に話してあるから、僕も山口の年間計画は把握してる状態だ。
 子どもを宿せる体、ということはつまりまあ、そういうことをする期間でもある。ヒートが厄介なのは、したいと思ったときにするソレとは違い、したくてたまらなくなるらしいこと。品のない言葉で言えば、欲しがってしまう。僕は、そういった意味では山口のつがいとしてなにかをしたことはなかった。婚前交渉否定派ではないが、学生のうちは控えようと山口が言ったから、そうしていた。
 それは、過去形。高校に入って初めてのヒートで、その話はくつがえされた。もう、手放せないと思った。それまで以上に。
「ツッキーはどうしようもなくなる日はないの?」
 特に色気もなく同じベッドに寝ている。僕の誕生日を大げさなくらい祝ってくれた山口は、ほんのりと頬を赤らめてそう聞いてきた。まだつがいではないのに同じベッドで寝るのはどうかと思うけど、客用布団を出してくるほど遠い関係でもないし、ただ眠るだけならそれくらい友人同士ならなくはないだろう。
「アルファはそういうのないじゃん」
「わかってるけどさー、ツッキーの誕生日が来たってことはもうすぐヒートだから……ちゃんと薬もらったからフェロモンだとか動けなくなるとかはないけど……」
 ヒートは、見た目以上に大変だ。その期間であることを匂いで周りに知らせるし、ひどいときは性的興奮を覚えて動けなくなる。山口とそういうことをしてしまったのは、僕がその匂いにまんまと誘われてしまったからだ。薬を飲んでいればそれを撒き散らすことはないものの、体の成長に伴った体質変化により、それまでの薬ではまかなえなくなってしまったのが原因だった。キスも、そのとき初めてした。それくらい別にしておいても良かったなとは、すべてが終わってから最初に思ったことだ。
「じゃあ逆に聞くけど、おまえはヒート以外のときはないの? どうしようもなくなる日」
 ヒートが辛いのはわかってる。抑えられるものを抑えられているが、本人にしかわからない部分の苦労が、それ以上にのしかかってることも。
「えっ、……どうしようもなくはならないけど、ヒート前とかはちょっとあるかも」
「ヒート前でしょ? アルファはそういう波もないの。それがどういうことか、わかんない?」
 だけど、オメガとかアルファとか、そんなもの以前に僕も、山口も人間だ。人間らしい本能があって、隣には好きな人。もしかしたらオメガはヒートとかつがいとか、そっちに本能が引っ張られてわからない、知らないのかもしれないけど。
「僕は、いつだってどうしようもないよ。おまえが隣にいるからね」
「えっ……、それ、それって」
「オメガはそれがヒート期間に詰まっちゃうから、普段はそういうことないのかな」
「え、ツッキー、」
「怯えなくても今なにかしようと思ってないよ」
 我慢しなきゃいけないからしてるわけじゃない。そういうことをしたい以上に、学校と、部活を優先しているというだけ。もちろん山口が望むならしてもいいけど、今はそれが優先だと認識をすり合わせ済みだ。
「……いや、ツッキーもそういうことしたいんだなって考えたら、すごい嬉しいっていうか」
 一気に真っ赤に染まった頬。それはこっちのセリフだと大きな声で言ってやりたくなった。おまえがそうやってかわいい顔をするから、どうしようもなくなる日が増えていくというのに。そのうえ、ソレを知ってしまった。ソレによる幸福も、知ってしまった。今の僕は、我慢だけでできている。
「ねえ山口」
「な、なに」
 これからも我慢、できるように。二人だけの決め事なんだから、緩めるのも二人で決めればいい。
「……キスくらいはしたいときにしてもいいかな」

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